広告には「鹿毛の牝馬」、登録の書類には「黒鹿毛」とあり、交配を考えている種牡馬は栗毛。この三つの言葉が食い違っていないか、そしてどんな毛色の子馬が生まれうるかは、馬の毛色がどう記録され、どう遺伝するかで決まります。この二つは別のものです。
この記事は、広告や登録書類を読む購入者と、交配の結果を考える生産者の両方に向けたものです。日本の登録制度が毛色をどう書くか、毛色を決める遺伝子、健康に関わる遺伝子、そして遺伝子検査で何がわかるのかを順に見ていきます。
日本の登録で使う馬の毛色:種類は14と8
日本で馬の毛色を記載する基準は、日本馬事協会の『馬の毛色及び特徴記載要領(第8版)』です。2019年2月15日に改訂されたこの要領は、全品種を対象に14の毛色を定めています。栗毛、栃栗毛、鹿毛、黒鹿毛、青鹿毛、青毛、芦毛、粕毛、駁毛、月毛、河原毛、佐目毛、薄墨毛、白毛の14種類で、パロミノは月毛に含まれます。同じ要領は星、流星、白面といった白斑の呼び方も定めています。
サラブレッドの登録を行うジャパン・スタッドブック・インターナショナル(JAIRS)は、8つの毛色で記録します。JAIRSは、芦毛の子馬は生まれた時点では地色に白い毛が少し混じる程度で、特に目の周りに現れること、そして中にはすぐに芦毛と判定しにくい場合もあることを明記しています。青毛も季節によって毛先が褐色になり、黒鹿毛や青鹿毛に見えることがあるため、目や鼻の周りで判断するよう求めています。
つまり書類の毛色は、記載した人がその時点で見た姿の記録で、子馬のうちに書かれることも少なくありません。海外でも事情は同じで、米国農務省の獣医師向け手引きは、馬の毛色や特徴の記述には統一された命名法がないと認めています。書類の毛色は名前であって、遺伝子の証明ではありません。購入時には、記載と図が目の前の馬と一致しているかを確かめ、合わなければ先に進む前に理由を聞いてください。
二つの遺伝子が三つの基本毛色を決める
呼び名がいくつあっても、土台になる毛色は栗毛、鹿毛、青毛の三つで、それを決めるのは二つの遺伝子です。一つ目のエクステンション(レッドファクター)は、黒い色素を作れるかどうかを決めます。カリフォルニア大学デービス校の獣医遺伝学研究所(VGL)によると、劣性の赤の対立遺伝子を二つ持つ馬は被毛に黒い色素を作らず、すべての子に赤の遺伝子を渡します。二つ目のアグーチは黒の分布を決めます。優性の遺伝子があればたてがみ、尾、脚の下部に黒が限定されて鹿毛に、劣性を二つ持てば全身に広がって青毛になります。
| エクステンション | アグーチ | 基本毛色 |
|---|---|---|
| e/e | 問わない | 栗毛:黒い色素なし |
| E/E または E/e | A/A または A/a | 鹿毛:黒は体の末端だけ |
| E/E または E/e | a/a | 青毛:全身が黒 |
アグーチは黒い色素を作れる馬にしか表れないため、栗毛の馬が青毛の遺伝子を隠し持っていても外からはわかりません。栗毛同士からは栗毛系の子しか生まれず、Eを二つ持つ馬は相手が何であれ栗毛の子を出しません。鹿毛や青毛の親が赤の遺伝子を隠しているかどうかは、毛色からは判断できません。
希釈遺伝子:クリーム、ダン、シルバー、シャンパン
基本毛色の上に、色を薄める遺伝子が重なります。クリームは赤い色素を薄め、一つで栗毛を月毛(パロミノ)に、鹿毛をバックスキンに変え、二つでクレメロやパーリノになります。VGLによれば、青毛の上ではクリーム一つの効果はごくわずかなので、スモーキーブラックが青毛として売られ、子の半分にクリームを渡すこともあります。
ダンは頭、脚の下部、たてがみ、尾を残して体を明るくし、背中に濃い線が出ることが多い遺伝子です。ただしこうした原始的な模様はダンの証拠になりません。VGLは、ダンではない型の遺伝子を持つ馬でも原始的な模様が出ることがあるとしています。
シルバーは黒い色素だけに作用し、青毛をチョコレート色に、たてがみと尾を亜麻色や銀色に変えます。栗毛では見えませんが、同じ変異が遺伝性の眼の病気、多発性先天性眼異常(MCOA)の原因になります。VGLは、シルバーを持つ栗毛の馬は毛色に何も出なくても眼の異常を持つ可能性が高いとしています。シャンパンは両方の色素を薄め、ピンクがかった皮膚と琥珀色の目をもたらします。
芦毛は変化していく毛色で、メラノーマのリスクがある
芦毛の馬は別の毛色で生まれます。VGLは芦毛を、どの基本毛色にも作用する進行性の脱色と説明し、6〜12歳でほぼ真っ白になることが多いとしています。芦毛は優性で一つあれば十分なので、芦毛の子には少なくとも片親に芦毛がいて、芦毛にならなかった馬が芦毛を隠し持つことはありません。競馬でおなじみの芦毛の競走馬が、若いうちは地色が濃く、年を重ねて白くなっていくのもこのためです。
同じ変異は芦毛馬をメラノーマにかかりやすくします。VGLは検査ページの中で、15歳を超える芦毛馬の70%以上がメラノーマを発症すると、研究所自身のまとめとして述べています。オーストリア・ウィーンの研究者による芦毛のリピッツァナー296頭の調査では、半数に皮膚のメラノーマがあり、15歳を超える68頭のうち51頭に見られました。腫瘍の75.6%は尾の下にありました。著者らは、芦毛のメラノーマは単色の馬のものより悪性度が低く、重い臨床症状が出た馬はいなかったと報告しています。
2024年のNature Communicationsの研究は、芦毛の変異に二つの型があることを示しました。一方は早く白くなりメラノーマの発生率が高く、もう一方はゆっくり白くなり発生率が低く、現在は遺伝子検査で区別できます。購入者にとって、芦毛の年齢と尾の下の皮膚も毛色の問題の一部です。しこりが問題かどうかは広告ではなく、購入前検査で獣医師が判断することです。
白斑の遺伝子と致死性白色子馬
白い模様もそれぞれ別の遺伝子です。白が耳と尾の間で背中を横切るトビアノは優性で、二つ持つ馬は必ずトビアノの子を出します。生産者が検査すべきなのはフレームオーバーロです。変異が一つなら模様が出て、二つなら致死性白色オーバーロ症候群になります。UCデービス校の馬健康センターによれば、その子馬は全身が白く、腸管が未発達な状態で生まれます。治療法はなく、数日以内に死ぬか安楽死となります。原因となるEDNRB遺伝子の変異は1998年に特定されました。
保因馬同士の子は1頭ごとに25%の確率で発症し、保因馬は見た目でわかるとは限りません。同センターによれば、模様のない単色と思われていた馬が発症した子を出しており、変異はペイントホースのほかサラブレッド、クォーターホース、アパルーサ、アメリカンミニチュアホースでも見つかっています。米国ペイントホース協会はすべての繁殖種牡馬にOLWSの検査結果を求めています。どちらかの親が保因の可能性があれば、交配の前に両方を検査してください。
馬の毛色の遺伝子検査でわかること、わからないこと
遺伝子検査は、たてがみか尾から根元ごと抜いた20〜40本の毛で遺伝子型を調べます。2026年10月時点で、UCデービス校の単一の毛色検査は42米ドル、毛色パネルは85米ドルでした。登録団体が自らの検査機関しか認めない場合もあり、スペインのPRE登録簿は、品種協会ANCCEの検査でしか書類の毛色を変更しません。オランダの事務局は、パーリノは通常は基本毛色の「castaña(栗毛)」として記載されると説明しています。
生産者にとって、遺伝子検査は推測を確率に変えます。牝馬と種牡馬の両方を、その交配に関わる遺伝子について調べてください。基本毛色ならレッドファクターとアグーチ、隠れている可能性があればクリーム、白くなる速さを知りたければ芦毛、どちらかの血統に白斑の馬がいればフレームオーバーロです。あとは計算で、赤を持つ鹿毛の牝馬(E/e)に栗毛の種牡馬(e/e)なら、子1頭ごとに50%の確率で栗毛になります。血統検索で見られる祖先の毛色は出発点で、親が何を持っているかを確かめられるのは検査だけです。
検査でできないのは、特定の子馬を約束することです。どちらに転んだかは、馬の妊娠期間を待って確かめるしかありません。健全性や気性、能力についても何もわかりません。
Hoofineでできること
Hoofineの掲載にある毛色は売り手が入力したものなので、登録書類と同じく、馬と照らし合わせて確かめる記述として扱ってください。オーナーは馬のプロフィールにOLWSの結果を記録でき、それが誰の申告か、つまりオーナー本人だけか、検査報告書が添付されているか、私たちが報告書と馬を照合したものかが表示されます。交配を考えるならHoofineの種牡馬から、購入なら販売中の馬からどうぞ。どちらも検査の代わりにはなりません。



