同じくらいの年齢と体高で、価格も近い売り馬が二頭います。一頭はせん馬、もう一頭は牝馬です。厩舎で相談すると、話し終える前に答えが返ってきます。「牝馬は気分屋だから、せん馬にしておきなさい」。初めての一頭をその一言で決める前に、馬の性別について研究が実際に何を見つけたかを知っておく価値があります。厩舎の常識とは、かなり違うからです。
この記事は、初めて馬を買う人が、どの売り馬を見に行くかを決めるためのものです。性別の表記の読み方、乗り手の思い込み、研究の結果、発情で説明できることとできないこと、せん馬に隠れているかもしれないこと、価格への影響、そして去勢していない牡馬が実は三つ目の選択肢にならない理由を、順に見ていきます。
馬の性別の表記:牡・牝・セの読み方
日本では、馬の性別は一文字で書かれます。牡は去勢していない雄、牝は雌、セは去勢した雄、つまりせん馬(騸馬)です。JRAの競馬用語辞典はせん馬を去勢された馬と説明していますが、その説明は、能力はあるのに気性の悪い雄を去勢する、という競馬の文脈で書かれています。競馬の出馬表では、馬名の横にこの一文字があり、そのあとに年齢が続きます。
乗馬クラブでも同じ文字に出会います。馬房の名札や在籍馬の紹介、乗用馬の売り情報の性別欄に、牡・牝・セ(または「せん」)と書かれています。意味は競馬と同じで、乗馬の世界だからといって別の記号があるわけではありません。初めての馬選びで実際に迷うのは、たいてい「牝」と「セ」のどちらを見に行くか、ということです。なお、以下で紹介する研究と資料は、どれも海外のものです。
乗り手の思い込みと、その出どころ
「せん馬のほうが楽」という見方は、うわさ話だけではありません。米国ラトガース大学の、初めて馬を買う人向けの資料は、乗用や競技に使う場合、せん馬は一般に安定していて問題を起こしにくいと書き、一部の牝馬は発情周期のせいで性格的な癖が出ることがある、としています。
乗り手の多くも同じ考えです。Fennerらが2019年に発表した1,233人の乗り手を対象とするオンライン調査では、回答者の大半が女性で、約4分の3が8年以上の乗馬経験を持っていました。せん馬は落ち着いていて信頼でき、安全だと評価されました。牝馬は安全で調教しやすいとされながらも、「仕切りたがり」で予測しにくいと言われました。同論文の集計によると、外乗に使いたい馬としてせん馬を選んだ人は71.8%、牝馬は23%です。そして著者ら自身は、牝馬は信頼性や予測しやすさで劣るという見方を「おおむね科学的根拠を欠く」と書いています。
行動を比べた研究の結果
同じ研究グループは、その1,233人が自分の馬について答えた151項目の行動質問票を分析し、牝馬とせん馬を比べました。騎乗中の行動には性別による差を示す証拠は見つかりませんでした。地上では小さな差が二つだけありました。牝馬は捕まえようとすると離れていく見込みがおよそ2倍で、せん馬はつながれているときに引き手のロープや馬着をかじりやすい、というものです。
これは飼い主の自己申告で、151項目に答えるほど熱心な人たちのデータですから、最終的な答えではありません。それでも私たちが見つけた中では最大の比較であり、牝馬はせん馬より乗りにくいという考えを支持していません。2019年の論文も、学習能力や調教の成果に差はないとする研究が多いと述べています。
発情とホルモン、そして獣医が実際に見つけるもの
牝馬には発情周期があります。MSD獣医マニュアルによると、多くの牝馬は日の長い季節に約21日ごとに排卵する季節繁殖動物で、発情は毎回2〜8日続き、日の短い冬には周期が止まります。冬に見学した牝馬は単に周期が止まっているだけかもしれないので、春から夏にかけての様子を売り手に聞くのは正当な質問です。
ただし、周期で何が説明できるかは別の話です。牝馬の行動を理由にある検査機関へ送られた2,914件のホルモン検査では、86%に卵巣腫瘍を示すホルモン変化が見られず、ホルモンの上昇とはっきり結びついていたのは牡馬のような行動だけでした。2026年に発表された約15,000頭の牝馬の診療記録の研究では、強い発情や長引く発情を理由に連れてこられた牝馬の56.8%が、診察時には発情していませんでした。攻撃的な行動は、整形外科的な診断と関連していました。獣医学の総説も同じ点を指摘し、卵巣のせいにされる行動の多くは筋骨格や軟部組織の痛みによるものかもしれない、としています。
発情を抑える方法には、ホルモン剤から手術まであります。28頭の牝馬を対象にした小規模な報告では、望ましくない行動を理由に卵巣が摘出され、その結果は飼い主が採点しました。どれも買い手が決めることではありません。季節で行動が変わる牝馬なら、獣医への最初の質問は「どこか痛いところはないか」です。治療をするか、何を使うかは獣医が判断します。
せん馬とは何か、そして隠れているかもしれないこと
せん馬は、精巣を外科的に取り除いた雄の馬です。米国獣医外科学会(ACVS)は、去勢は牡馬の望ましくない行動をなくすために行われると説明し、身についた牡馬の癖は変わるまでに時間と調教が必要で、馬によってはずっと残ることもある、と付け加えています。
よく引用される研究は1985年の古く小さなものですが、数字は知っておく価値があります。2歳になる前に去勢された94頭のせん馬のうち、20〜30%が牡馬のような性行動や他の馬への攻撃性を示し、5%は人に対して牡馬のような攻撃性を見せました。3歳を過ぎてから去勢された馬と比べても、有意な差はありませんでした。
さらに、せん馬として売られていても、実はそうではない馬がいます。片方の精巣が降りてこなかった馬を潜在精巣(陰睾)の馬といい、見えるほうだけが取り除かれていると、外見はせん馬でもホルモンを出し続けます。これは血液検査で確かめられます。コーネル大学の動物衛生診断センターは、AMH検査を精巣組織の有無を調べる最も信頼できる検査とし、テストステロンの測定と組み合わせるよう勧めています。「セ」と書かれた馬が牝馬に乗りかかったり、牝馬を追い集めたりするなら、購入前の獣医検査でこの検査を頼んでください。
牡馬は初めての一頭の候補から外してよい
去勢していない牡馬について、初めて馬を持つ人への答えは短いものです。ラトガース大学の資料は、牡馬は繁殖施設以外では検討すべきではない、とはっきり書いています。しかも、すでに持っている牡馬を去勢すれば必ず解決するわけでもありません。1985年の研究では、行動が問題になった牡馬を去勢して、性行動と人への攻撃性が収まったのは60〜70%で、全頭ではありませんでした。見に行くのは牝馬とせん馬で十分です。
価格、転売、繁殖という選択肢
牝馬のほうが安いと言われるかもしれません。けれども価格については、性別を扱った研究どうしが一致していません。それ自体が役に立つ発見です。
| 調べた市場 | 性別と価格の関係 |
|---|---|
| 米国のストックホース、オンラインオークション、2013〜2019年(落札930頭) | 牝馬(若い牝を含む)は牡馬より48.1%高く、せん馬は牡馬と差がない |
| 米国の元競走馬のサラブレッド、スポーツホースのオンラインオークション、2012〜2020年(170頭) | 牝馬はせん馬より平均924.08米ドル低い |
| アイルランドの若いスポーツホースのオークション、2022〜2023年(307頭) | 単純平均でせん馬19,235ユーロ、雌14,463ユーロ。何の調整もしていない数字 |
ストックホースの数字は2020年のオークション分析、サラブレッドの数字は2023年の後続研究によるもので、後者の著者は市場によって動き方が違うのだろうと述べています。アイルランドの平均は、性別をまったく検定していない2025年の研究の付録表から取りました。同じ条件のせん馬より牝馬が安く出ていても、行動研究にそうあるべき理由はありません。健康で扱いやすい牝馬なら、同じ予算でよりよい買い物になることがあります。価格が何で決まるかは馬の購入価格の記事にまとめています。
牝馬には、せん馬にはないものが一つ残ります。繁殖の可能性です。ただし、それはただの付加価値ではなく、費用のかかる選択肢です。実際にどれだけかかるかは牝馬の繁殖の記事を見てください。
見学で馬の性別をどう考えるか
馬の性別の問題は、一頭ずつ片づけるのがいちばんです。表記ではなく、目の前の馬を見てください。捕まえるところ、つなぐところ、手入れ、騎乗を見せてもらい、自分でも乗ります。牝馬なら、春から夏にどう変わるか、いまホルモン剤を使っているかを聞きます。せん馬なら、いつ去勢したか、牝馬に乗りかかったり追い集めたりしたことがあるかを聞きます。そのうえで、どちらも獣医に診てもらいましょう。悪い行動の説明としては、性別より痛みのほうがずっと多いからです。年齢、調教、気性のほうがはるかに大事なことは、初心者に向く馬の品種の記事で見たとおりです。
私たちの役割
Hoofineには、ある牝馬が扱いやすいか、ある「セ」の馬が実は潜在精巣かを判断することはできません。それは見学と購入前の獣医検査の役目です。サイトでできるのは、販売中の馬を性別で絞り込むこと、または両方を含めることと、Wantedボードに探している条件をはっきり書くことです。研究から言える私たちの助言は、牝とセの両方にチェックを入れて、最後は一頭一頭で決めることです。



