冷え込んだ朝、馬房から出した馬の後肢を持ち上げると、白い繋(つなぎ)の後ろ側にかさぶたが並び、その下の毛が固まっています。厩舎の誰もが同じ名前で呼び、それぞれ違う軟膏を勧めてきます。手に取る前に、繋皸(けいくん)が実際にはどういうものかを知っておくと役に立ちます。原因によって、その脚に塗るべきものが変わるからです。
この記事は、初めての冬を迎える馬のオーナーに向けたものです。かさぶたの裏に何があるのか、市販の手当てがなぜうまくいかないことが多いのか、軟膏ではなく獣医が必要なのはどんなときか、そして脚を洗いすぎずに予防する方法をまとめました。数ある馬の皮膚病の中でもありふれたものですが、これは獣医療のアドバイスではありません。診断と処方薬は、かかりつけの獣医師の判断です。
繋皸は一つの病気ではありません
獣医師は「繋の皮膚炎(pastern dermatitis)」と呼びます。英語圏では mud fever、scratches、greasy heel などの名前もあります。米パデュー大学獣医学部はこれらの名前を並べ、踵、繋の後ろ側、球節に起こる細菌が混じり、真菌が関わることも多く、寄生虫が関わることもある皮膚の状態だと説明しています。
専門家はさらに踏み込みます。2013年の馬臨床の総説は、これを一つの病気ではなく皮膚の反応パターン、つまり診断名ではなく症候群として扱い、治療の前に根本の原因を突き止めることが治療の失敗を減らす鍵だとしています。2023年に米国獣医師会誌(JAVMA)に載った総説も同じ立場で、質の高い研究がまだ少ないため治療はいまも経験的なものにとどまると述べています。かさぶたは原因が違ってもよく似て見えます。治療を決めるのは、見た目ではなく原因です。
日本の冬の繋皸:JRAの育成牧場の報告から
日本で繋皸についてまとまった情報を出しているのは、主にJRA(日本中央競馬会)の育成牧場です。以下は競走馬についての報告で、乗馬やほかの馬にそのまま当てはまるとは限りません。JRA日高育成牧場のブログ(2025年1月)によると、繋皸は繋から球節の後ろ側に起こり、特に白斑の部分に起こりやすいと言われています。冬は湿度が低く、ジェットヒーターによる乾燥も加わって皮膚のバリア機能が落ち、深い馬場でできた小さな傷から黄色ブドウ球菌が感染する、という説明です。重いものでは腫れや痛み、跛行が出ます。
同じ牧場の報告がBTCニュース第82号に載っています。栗東の調教師105名にアンケートを送り、回答した67名のうち53名(79.1%)が繋皸に悩んでいると答えました。発生は10月から3月に多く、ピークは1月です。白い脚が関係するかどうかは調教師の間でも意見が分かれ、シャンプーでの洗いすぎ、消毒液の拭き残し、乾かしすぎが原因として疑われていました。つまり日本の繋皸は、泥の問題であると同時に、乾いた寒さと洗いすぎの問題でもあるということです。
かさぶたの裏にある原因
| 原因 | なりやすい馬 | 必要なこと |
|---|---|---|
| 濡れて傷んだ皮膚に入る細菌 | どの馬でも。湿った時期に悪化 | 脚を乾かす、やさしい洗浄、治療は獣医が選ぶ |
| 脚につくショクヒヒゼンダニ(Chorioptes) | 距毛の多い馬、とくに重種 | 獣医によるダニの治療 |
| 繋の血管炎 | 主に白い脚 | 診断のための生検、日光を避ける、処方薬 |
| 光線過敏症 | 白い皮膚。肝臓を傷める植物を食べた後に起こることがある | 獣医、肝臓の検査、日中は日陰か馬房 |
細菌
英国馬協会(BHS)は、ぬかるみや濡れた場所に長く立つこと、汚れた寝わら、脚の傷を繋皸の危険因子に挙げています。ただ、どの細菌なのかは、売り場の説明ほどはっきりしていません。ドイツ・ミュンヘン大学の研究では、若い温血種100頭を2年の秋にわたり8月から10月まで毎週診察し、33頭に繋の病変が出ました。採材した12例のうち10例から黄色ブドウ球菌とレンサ球菌が見つかり、よく原因とされる Dermatophilus congolensis は、検査した10頭のどれからも見つかりませんでした。
ダニ
距毛の多い馬では、ダニのかゆみで脚を踏み鳴らし、自分で皮膚を傷つけます。距毛の多い19頭を対象にした対照試験は、このダニを繋の皮膚炎のよくある原因とし、治療の失敗や再発が多いこと、試した治療法ではダニを抑えられなかったことを報告しています。ここは獣医に任せる部分です。
白い脚と日光
ミュンヘンの研究では、病変が出た47本の脚のうち37本が白い脚でした。白い脚の馬の中には、小さな血管の炎症である繋の血管炎の馬もいて、日光で悪化するのではないかと考えられています。カナダのゲルフ大学の診断検査所は、皮膚の生検で診断すると説明し、20例の報告では治療への反応は悪く、予後は慎重を要するとされています。光線過敏症は見た目が似た別の問題で、メルク獣医マニュアルによると、馬では肝臓の障害によるものが多く、肝臓に有害な植物を食べることがよくある原因です。皮膚は症状で、問題は肝臓にあります。
真菌
根拠がいちばん弱いのが真菌です。2023年の総説は、ダニや皮膚の細菌のバランスの乱れとの関連は一貫して見られる一方、真菌感染との関連は見られないとしています。ミュンヘンの研究でも皮膚糸状菌は見つかっていません。
市販の軟膏がうまくいかない理由
軟膏で落ち着かせても、ダニや血管炎、肝臓の障害には何の効果もなく、それぞれに別の治療が必要です。スイスの獣医学誌に載った、繋皸の馬123頭のオーナーへの調査では、治療の判断の69%が獣医に相談せずに行われていました。回答のあった114頭のうち37頭(32%)、つまり約3分の1では、馬が痛がるか跛行してから初めて獣医を呼んでいます。著者らは、そのために原因が分かりにくくなり、治療が長引くと指摘しています。
市販の抗菌剤にも注意が必要です。スイスで飼われている80頭を調べた研究では、病変部でブドウ球菌が増えており、とくに以前に抗菌治療を受けた部位で多く見られました。軟膏が原因だと証明されたわけではありませんが、脚に何を塗るかを獣医に決めてもらう理由の一つになります。
繋皸で獣医を呼ぶべきとき
BHSは、疑った時点で獣医を呼び、原因に合った治療を受けるよう勧めています。少なくとも次のどれかがあれば連絡してください。
- 跛行している、または脚に触らせない。
- 腫れが脚の上へ広がる、熱を持っている。放置すると蜂窩織炎やリンパ管炎につながることがあり、片脚だけに起こることもよくあります。
- 深い傷、白や黄色の分泌物。パデュー大学が獣医を呼ぶ理由として挙げています。
- 放牧中の馬の白い脚にかさぶたがあり、ほかの白い部分やピンクの皮膚にも痛みがある。泥以外の原因、血管炎や光線過敏症を疑う理由になります。
- 決めた手当てを続けても良くならない、何度もぶり返す。
クッシング病など免疫が落ちる病気がある馬なら、そのことも伝えてください。BHSによると、こうした馬は繋皸になりやすく、治りにくいからです。獣医は血液検査や細菌の検査、生検を行うことがあり、それで原因が分かります。
獣医を待つ間にできること
まず馬を乾いた場所に移します。パデュー大学は、治るためにいちばん大切なのは清潔で乾いた環境だとしており、しばらくは清潔で乾いた寝わらの馬房に入れることになるかもしれません。かさぶたを無理にはがさないでください。BHSも、獣医の指示がない限り無理に取らないよう書いています。
獣医に洗うよう言われたら、ぬるま湯を使い、よくすすいで清潔なタオルで押さえるように完全に乾かします。傷のある皮膚に、厚く油っぽい軟膏や保護クリームは塗らないでください。英国の馬福祉団体ワールド・ホース・ウェルフェアはこうした細菌は空気の通らない環境を好むと注意しており、BHSも、汚れたり湿ったりした皮膚に塗った保護クリームは細菌が増える絶好の場所になると述べています。
洗いすぎない繋皸の予防
毎晩すべての脚を洗いたくなるところですが、BHSは定期的な脚洗い、とくに洗った後に乾かさないことを、それ自体が危険因子だとしています。代わりに泥が乾くのを待ってブラシで落とすよう勧めています。日本の競走馬の報告で洗いすぎや乾かしすぎが疑われていたのと同じ方向です。あとは地面と道具の話です。
- 一日の一部は乾いた場所に立てるようにし、ゲートや水桶のまわりの地面を固める。
- 保護クリームは、清潔で乾いた、傷のない皮膚にだけ使う。
- 放牧用ブーツは合ったものを使う。パデュー大学は、湿気をためる包帯やブーツは悪化させ、ブーツを馬同士で使い回さないよう書いています。
- 毎日、すべての繋の後ろ側を見る。早く見つけたものほど楽に済みます。
距毛の多い馬は難しいケースです。距毛を刈れば皮膚が乾き、状態も見やすくなるので、パデュー大学もBHSも勧めていますが、ダニには別の治療が必要です。ミュンヘンの研究では、11月に放牧をやめると病変の多くが治まりました。軟膏の種類より地面のほうが大切だということです。
Hoofineにできること
Hoofineは脚を診断できませんし、どんな記事にもそれはできません。サイトでできるのは、近くの馬の獣医や預託厩舎を探すお手伝いです。地面がぬかるむ前に、放牧や乾いた立ち場所について聞いておけます。距毛の多い馬を買うなら、購入前検査で脚のことも聞いてください。冬の準備の続きは馬着を着せるタイミングの記事をどうぞ。



