乗馬クラブで数年レッスンを受け、指導員から「そろそろ自馬を考えてもいい」と言われた。そこで初心者向けの馬を調べると、クォーターホースやハフリンガーといった品種のリストばかりが出てきます。こうしたリストは欧米の事情を前提にしていて、日本の事情とはあまり重なりません。しかも品種が教えてくれるのは、その馬が何を目指して作られたかであって、目の前の一頭が何を教わってきたかではありません。
この記事は、初めて自分の馬を買おうとしている人のためのものです。研究が品種について何を示しているか、日本にいるのはどんな馬か、在来馬と引退競走馬について公的な資料が実際に何と書いているか、そして品種名よりも最初の一年を左右する年齢、調教、体格、試乗について順に見ていきます。
品種でわかること、わからないこと
気質に品種差があることは、実際に測られています。ロイドらの研究は8品種1,223頭について性格の質問票を集め、品種間で最も差が大きかったのは不安の強さと興奮しやすさ、最も小さかったのは優位性と保護行動だったと報告しました。主に米国の馬についての847件の回答を集めたサックマンとハウプトの調査では、アラブ、サラブレッド、サドルブレッド、ウォーキングホースが最も神経質な側、クォーターホース、ペイント、アパルーサ、重種馬が最も神経質でない側でした。
ただし、どちらも馬主などが馬を評価した結果で、示しているのは平均です。広告に出ている一頭については何も言っていません。別の研究チームが702頭に標準化した行動テストを行ったところ、結果は、品種や父馬は新しいものへの反応に、仕事の種類は学習や仲間から離されたときの反応に、より強く影響しているようだというものでした。血統は出発点を決め、扱いと仕事がそれを動かします。
日本で初心者向けの馬を品種から探しにくい理由
海外のリストに並ぶ品種は、日本の統計にはほとんど現れません。日本馬事協会のサイトに掲載されている馬関係資料によると、2024年の国内の馬は全体で77,595頭、そのうち競走馬とその生産のための軽種馬が48,518頭です。同じ年に生まれた乗系馬は118頭で、軽種馬の産駒7,929頭とは桁が違います。協会の登録事業の品種一覧にはクォーターホース種もハフリンガー種もありますが、令和6年度の繁殖登録雌馬の品種構成では、乗系全体53頭のうちクォーターホース系は1頭、ハフリンガーは0頭でした。乗用馬の総数は2010年を最後に数字がなく、乗馬クラブの馬の品種構成を示す公的な統計もありません。
一方、競馬の世界からは、はるかに多くの馬が出てきます。農林水産省の「馬産地をめぐる情勢」(令和8年6月)によれば、令和6年末に登録されていた競走馬21,907頭のうち10,936頭が令和7年に登録を抹消され、そのうち3,463頭(約32%)の抹消事由が「乗馬」でした。これは抹消のときに記録された事由で、その後どうなったかを追った数字ではありません。乗系馬の生産118頭とこの3,463頭を並べると、クラブの馬の多くは元競走馬のサラブレッドだろうと考えたくなりますが、それを示す統計はなく、これは二つの数字からの推測にすぎません。
在来馬について公的な資料が書いていること
「日本の馬ならおとなしいはず」と在来馬を思い浮かべる人もいます。在来馬は8馬種で、日本馬事協会の集計では令和6年度に合計1,612頭、うち1,056頭が北海道和種馬(どさんこ)です。ただしこれは各保存団体の報告値で、馬関係資料の注にあるとおり、保存地域以外で飼われている馬は含まれていません。
| 馬種 | 体型標準の記述 | 体高 |
|---|---|---|
| 北海道和種 | 「体質強健、持久力に富み、性質は悍威に富む」 | 牡127〜130cm、牝123〜130cm |
| 木曽馬 | 「体質強健、持久力に富み性質は従順である」 | 牡132〜140cm、牝130〜136cm |
出典は協会の種馬登録規程事務細則(第8版、2010年)で、これより新しい版は見つかりませんでした。悍威は馬の審査で気力の強さを指す言葉で、「おとなしい」という意味ではありません。協会が在来馬全体を「性質温順」と書いているのは2009年の『60年のあゆみ』で、保存について述べた箇所です。どちらも登録や保存のための文章で、乗り手への助言ではなく、初心者には触れていません。協会が最近の用途として挙げているのは、ホーストレッキング、流鏑馬、ホースセラピーです。
海外の協会の文章も同じ読み方が要ります。米国クォーターホース協会(AQHA)の規則集は、この品種は「kind and willing disposition」(優しく意欲的な気質)を持つよう改良されてきたと書き、ウェルシュポニーの協会はマウンテンポニーの性格を「Hardy, spirited and pony-like」(丈夫で気力があり、ポニーらしい)としています。どれも育種の目標で、広告の一頭についての保証ではありません。
引退競走馬は品種ではなく再調教で見る
日本で馬を探す人にとって、品種の問いはたいてい「この元競走馬はどう再調教されたか」という問いになります。JRAは乗用馬と馬術競技馬を引退競走馬の主なセカンドキャリアとし、2020年にリトレーニング指針をまとめました。指針は、競馬のために改良されたサラブレッドの性質は「『乗馬』として必要な資質(大人しく従順)と異なる」と書き、リトレーニングとは競走期に受けた特殊な教育を「初期化すること」だと言っても過言ではないとしています。第1段階が終わるまでが、個体差はあるものの約3ヶ月。乗馬としての新馬調教を始められるのはその後です。
この指針は再調教をする人に向けたもので、初心者という言葉は一度も出てきません。JRAが言っているのは、元競走馬が乗馬になるには再調教が要るということで、初心者に向かないということではありません。米国の調査でサラブレッドが神経質な側にいたのも、平均の話です。全国乗馬倶楽部振興協会は2018年度から、リトレーニングを経て乗用馬に用途変更した元競走馬のための競技会RRCを開いています。売り手には、いつ引退したのか、誰がどれだけの期間再調教したのか、その後どんな乗り手を乗せてきたのかを尋ねてください。
初心者向けの馬を決めるのは年齢と調教
初めての自馬の選び方について、日本の公的機関や全国団体が出した助言は見つかりませんでした。海外では、英国馬協会(BHS)の購入ガイドが、初めての馬主はごく若い馬、まだ人を乗せていない馬、経験の浅い馬を避け、乗られた経験を着実に積んだ馬を選ぶよう勧めています。米国ラトガース大学の普及資料はもっと率直で、経験のない乗り手のために経験のない馬を買ってはならず、年長の馬は同じ質の若い馬より安く、調教と経験が多いことがよくあると書いています。何歳がよいという数字は、どちらも示していません。
日本では、全国乗馬倶楽部振興協会が乗馬の紹介ページで「乗馬クラブでは、人間が大好きでおとなしくて素直な馬に乗ってもらいます。」と書いています。馬を品種ではなく性質で説明しているわけです。協会に登録しているクラブは約290あります。乗馬クラブを通して買う意味はここにあります。自分が何度も乗った馬、指導員が毎日見ている馬なら、広告の言葉ではなく実際の様子で判断できます。「初心者向き」や「おとなしい」は売り手の説明で、それを認定する団体はありません。予算の立て方は馬の購入費用の記事にまとめています。
体格と、馬が背負える重さ
体高はリストが言うほど重要ではありません。コネマラの品種標準は体高128〜148cmのポニーを「子どもにも大人にも向く」とし、米国のアイスランドホース団体(USIHC)は、体高がおおむね125〜145cmのアイスランドホースについて、その大きさは大人にも子どもにも合うと書いています。大事なのは、その馬があなたを乗せられるかどうかです。
騎手の体重について、日本に全国的な基準は見つかりませんでした。体重制限は各クラブが決めています。BHSは「すべてに当てはまる一つの式はない」とし、馬の年齢、体型、筋肉、体力、血統、そして乗り手によると説明しています。初心者はバランスが不安定になりがちで、不安定な荷は馬にとって運びにくいからです。数字を出しているのはドイツの獣医師動物福祉協会(TVT)で、2019年の資料は、騎手と馬具を合わせて馬体重の約15%を現実的で許容できる負荷とし、25〜30%は動物福祉に反するとしています。
よく引かれる実験は、ダイソンらの2020年のパイロット研究です。体重の違う4人の騎手が6頭に乗り、馬体重の15.3〜17.9%と23.6〜27.5%にあたる重い2人の騎乗13回はすべて途中で中止され、うち12回は一時的な跛行が理由でした。著者自身が、鞍が合っていない組み合わせがあったこと、中止の基準が主観的だったことを限界に挙げています。基準ではなく警告として読み、迷うなら買う前に獣医とサドルフィッターに相談してください。
試乗してから、獣医検査
気質がわかるのは試乗のときです。BHSは、馬が放牧地から連れてこられ、手入れされ、馬装される様子を見ること、まず売り手に乗ってもらい、それから自分が実際にするつもりの乗り方を試すことを勧めています。ラトガースは、時間帯を変えて何度か乗りに行き、車や自転車、犬のそばも通ってみるよう書いています。指導員に同行してもらい、いなければ売り手と関係のないトレーナーに頼んでください。試用期間を設けるなら、条件は書面にします。
獣医検査はその後で、答える問いが違います。ユタ州立大学エクステンションは、購入前検査は健康と健全性については最良の備えだが、気質や調教、技量の水準まで完全に評価するものではないかもしれないと書いています。検査の中身は購入前の獣医検査の記事にあります。自分の馬を持つこと自体にまだ迷いがあるなら、まず借りてみるほうが安く確かめられます。
私たちの役割
Hoofineは、その馬の乗り味を教えることはできません。掲載にある「初心者向き」は売り手の説明で、私たちが試験したものではありません。できるのは探す範囲を絞ることです。販売中の馬は品種と年齢で絞り込めますし、Wantedボードには、必要な年齢、調教、体格を書いて品種は空けておくことができます。たいていはそのほうが良い依頼になります。



